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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)3855号 判決

原告

奥山清秀

原告

奥山幸子

右原告ら訴訟代理人弁護士

伊礼勇吉

長谷川健

被告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右指定代理人

金岡昭

渡辺邦彦

主文

一  被告は、原告らに対し、それぞれ金三二八万三八六〇円及びこれに対する昭和五八年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告らに対し、それぞれ金三〇二五万〇八三九円及びこれに対する昭和五八年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

訴外奥山展人(昭和五〇年一二月七日生、以下「展人」という。)は、昭和五八年五月一八日午後五時三〇分ころ、東京都練馬区光が丘四丁目一番一号所在の都立光が丘公園(以下「本件公園」という。)内に設置された展望台付休憩所(以下「本件展望台」という。)に友人秋元由紀(当時小学校二年生)、福山美園(同二年生)らとともに行き、同展望台北側の屋上に至る螺旋状のスロープに囲まれた植込(以下「本件植込」という。)付近から屋上の鉄柵外の庇部分に出て、その南側で遊んでいた際、右秋元由紀から同所にある三角形の装飾用の塔(以下「三角塔」という。)に登れるかと聞かれ、右三角塔に駆け登ろうとして反動をつけるため三角塔の西側方向に後ずさりしたところ、庇の縁のパラペットに足をとられ、約四メートル下の地面に転落して頭部を強打し、頭骸内臓器損傷の傷害を負い、よつて同月二二日午前零時三三分ころ、搬送された板橋区加賀二丁目一一番一号所在の帝京大学附属病院において死亡した。

2  被告の責任原因

(一) 本件展望台は公の営造物であり、被告が設置し管理している。

(二) 本件事故は、本件展望台に関する被告の設置又は管理に次のような瑕疵があつたために発生したものである。

すなわち、本件公園は旧グランドハイツ跡地に設置された広大で緑豊かな公園として多くの都民がこれを利用し、子供たちにとつても絶好の遊び場であるところ、本件展望台は別紙図面(一)ないし(四)記載のとおりの構造で、屋上には一応鉄柵は設けられているものの、右鉄柵は屋上外縁からかなり内側に設置されていたため、その外側庇部分には子供たちがここに出て遊びたいという誘惑にかられるスペースが生じ、そこで遊ぶ子供たちが転落し、ひいては死亡する事故の発生する危険が存在していたものである。したがつて、これを防止するためには、被告としては本件展望台屋上の右鉄柵をより外側に設置した構造にし、また右のような広い庇部分が生じるときには子供たちが庇部分に出ることのできないようにし、また仮りにここに出たとしても転落事故の起きないよう転落防止のための措置を講ずることが必要であつたにもかかわらず、本件展望台は別紙図面(一)、(二)、(四)のA点付近からB点付近の植込部分を通つて庇部分のC点付近に容易に出ることのできる構造であり、右庇部分の外側には転落防止の設備は設けられていなかつた。しかも、多数の子供たちが実際に毎日のように庇部分に出て遊んでいたのであつて、被告はそれを知り、あるいは容易に知り得たのであるから、転落事故を防止するために必要な措置を講ずるべきであつたのに、本件展望台を転落事故の発生する危険の存在するままに特段の措置を採ることなく放置していたものである。

よつて、被告の本件展望台の設置又は管理に瑕疵があつたというべきである。

本件事故は、被告の右設置又は管理の瑕疵によつて生じたものであるから、被告は本件事故による後記損害を賠償する義務がある。

3  損害

(一) 展人の逸失利益 金三六五〇万一六七八円

展人は本件事故当時満七歳の健康な男児であつたから、本件事故に遭わなければ、一八歳から就労終期の六七歳まで四九年間稼働することができたはずであり、その間少なくとも昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計男子全年齢平均給与額にベースアップ率〇・〇七〇一で計算した金額を加算した金三八九万〇四〇〇円の年収を得たはずであり、同人の生活費は収入の五〇パーセントとするのが相当であり、新ホフマン式計算法によつて中間利息を控除すると、展人の逸失利益は金三六五〇万一六七八円となる。

3,890,400円×(1−0.5)×18.765=36,501,678円

(二) 展人の慰謝料 金八〇〇万円

展人は、本件展望台の設置又は管理の瑕疵のために展望台屋上から転落し、その結果頭部を強打し、頭骸内臓器損傷の重傷を負い、幼い体で約四日間苦痛と戦いながら死線をさまよい、両親らの顔を再び見ることもなく、満七歳の短い生涯を終えたのであつて、これから両親の暖かい愛情のもとで春秋に富む人生を送るはずであつた展人の無念、その苦痛は何ものにもかえがたい。これを慰謝するためには少なくとも金八〇〇万円を下らない額が相当である。

(三) 展人の損害の相続

原告らは展人の父母であるから、展人が昭和五八年五月二二日死亡したことにより、前記(一)、(二)の展人の被告に対する損害賠償請求権を各二分の一の割合(各金二二二五万〇八三九円)で相続により取得した。

(四) 原告ら固有の慰謝料 各金八〇〇万円

展人は、原告らにとつて生きがいであり、可愛いさかりの元気な子供であつた。原告らは、展人の成長を楽しみに愛情をこめて育てていた。原告らは、都立光が丘公園は子供の安全な遊び場と信じており、それだからこそ同公園内で遊ぶことを展人に許していたものである。ところが、元気に家を出て公園に遊びに行つた展人は、一瞬のうちに本件事故により、頭部を打ち砕かれ、再び父母の顔を見ることも、一言の言葉を発することもできず死んでいつたのである。このような展人の姿に接したとき、原告らの悲しみ、その苦痛は、計り知れないものがある。将来の生きがいを奪われたその精神的苦痛をあわせて考えると、これを慰謝するためには、各原告につき少なくとも金八〇〇万円を下らない額が相当である。

よつて、原告らは被告に対し、国家賠償法第二条第一項に基づき、それぞれ金三〇二五万〇八三九円及びこれに対する展人が死亡した日である昭和五八年五月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち展人らが本件植込付近から庇部分に出たことは否認し、その余は認める。

2  同2(一)の事実及び同2(二)のうち本件展望台の構造が別紙図面(一)ないし(四)記載のとおりであることは認め、その余の主張は争う。

被告の本件展望台の設置又は管理に瑕疵はなく、仮りに瑕疵があるとしても、本件事故と右瑕疵との間には相当因果関係がない。すなわち、

(一) 本件展望台屋上には高さ一・三一メートルの鉄柵が設置されており、防護柵としてはこれで十分であるが、子供らが鉄柵に登つた場合には、誤つて地上に転落するおそれがない訳ではない。そこでこのような転落事故をも防止するために、わざわざ庇が設けられ、さらに庇部分に転落しても、すぐには地上に落下しないように、庇の先端に高さ〇・三四メートルのコンクリートの壁(パラペット)が設けられている。

このように、本件展望台の危険防止のための設備は十分であつて、被告において、通常人の出入りを予定していない庇部分において発生するおそれのあるあらゆる態様の危険を事前に予測することは困難であり、そのような予見できない危険を防止するに足りる設備を設けることまでは要求されていないというべきである。

(二) また、本件展望台は、その北側にある螺旋状のスロープを登れば、屋上の鉄柵内に自然に誘導される構造となつており、右スロープと本件植込みとの間に設けられた縁石は、別紙図面(一)、(二)、(四)のA点付近において、垂直の高さが一メートル、法面の長さが一・三四メートル、斜度四二度で、しかもその壁面がタイル張りで滑りやすい状態になつているのであるから、背丈の低い展人のような小学校低学年の児童にとつては、決して容易に登れる構造ではなく、植込付近から鉄柵外に容易に出られるものではない。

また、本件公園管理事務所には所長以下一〇名の職員がおり、園内の巡回は巡視専門の職員一名があたつており、通常午前中は三、四回、午後は四、五回、園内全域を巡回し(職員の勤務時間は午前八時四五分から午後五時まで)、それ以外の職員も機会があれば適宜巡回して、危険行為に対しては、その都度注意を与えているが、本件展望台の庇部分に子供が出ているのを見かけたのは多いときでもせいぜい月に一、二度程度で、その場合は、職員がその場で危険である旨を告げて柵内に連れ戻している。

したがつて、本件展望台の管理に瑕疵があるとはいえない。

(三) また、庇部分の幅員は、東側と西側がそれぞれ約一・〇九メートル、南側が約三・三〇メートルあり、しかもその外縁に高さ〇・三四メートルのパラペットがあるから、児童が柵外の庇部分に出たとしても直ちに転落の危険があるものではないし、転落しても、庇部分の床から地面までの高さは約三・六メートルであつて、直ちに死亡するような事故に結びつくものではない。

仮りに、本件展望台の設置又は管理に瑕疵があるとしても、本件事故は展人が傾斜角度が六五ないし六八度もある三角塔に駆け登ろうとして助走をつけるため、背後の安全を確認することなく後ずさりしたため頭から転落したことにより発生したものである。

したがつて、本件事故は、展人の自らの一方的な不注意により、しかも急角度の三角塔に駆け登るという一般人の通常予測し得ない異常な行動によつてたまたま発生した事故というべきであるから、公の営造物たる本件展望台の設置又は管理の瑕疵に起因するものとはいえない。

3  同3のうち、展人が本件事故当時満七歳の男児であつたこと、原告らが展人の父母であることは認め、その余の主張は争う。

(四) 図(俯瞰目)

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1の事実(本件事故の発生)については、展人が本件植込付近から本件展望台屋上の鉄柵外の庇部分に出たとする部分を除き当事者間に争いがない。そして、後記のとおり、展人は本件植込を通り別紙図面(一)、(二)、(四)のC点付近から庇部分に出たものと推認することができる。

二本件展望台が被告の設置管理する公の営造物であること(請求原因2(一))は、当事者間に争いがない。そこで右設置又は管理に瑕疵があつたか否か(同2(二))について判断する。

1  本件展望台の構造が別紙図面(一)ないし(四)記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、このことと〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件展望台の高さは約三・九一メートルであり、その北側に設置されている螺旋状のスロープを登れば自然に本件展望台の屋上に出ることができる。屋上には、高さ約一・三一メートルの鉄柵が設置されているが、鉄柵の外側には、東及び西に幅約一・〇九メートル、長さ約三一・八〇メートルの、また南に幅約三・三〇メートル、長さ約七・七八メートルの庇部分があり、南側の庇部分には角度六五度の本件三角塔が突き出ている。庇の外縁にはコンクリート壁(パラペット)が設置されているが、その高さは約〇・三四メートル程度の低いもので、しかも約七三度の角度で外側に傾斜している。

(二)  本件植込は、右螺旋状のスロープに囲まれ、スロープとの間はタイル張りの擁壁が設置されている。本件展望台は、昭和五六年一二月二六日に供用が開始されたものであるが、本件事故当時、右植込の中央部には、下から上に人の通行によつて踏み固められたと思われるけもの道様の部分が生じており、この部分を登つて本件植込の最上部に出、そこから庇北西端の鉄柵が設置されていない部分(別紙図面(一)、(二)、(四)のC点付近)に飛び移ることが容易にできる状態にあつた。

(三)  本件事故発生以前、多数の児童が頻繁に本件展望台屋上の庇部分に出て遊んでおり、本件事故発生の直前も展人のほか多くの児童が庇部分で遊んでいた。

(四)  右庇部分に出るには、屋上の前記一・三一メートルの鉄柵を乗り越えるのであれば格別、スロープ途中の別紙図面(一)、(二)、(四)のA点付近から右けもの道を通つてC点付近に出るという経路以外には、適当な方法がない。そして右けもの道が踏み固められた状態からすると、庇部分に出た児童の多くは、この経路を通つていたものと推認され、現に、本件事故当日、展人が一緒に本件展望台に行つた児童らと共に本件植込の上部付近に居たことが目撃されていること及び本件事故発生直後、展人と遊んでいた児童らが急遽C点付近から逆の経路を通つて下りたことなどから、展人も当日は右の経路で庇部分に出て遊んでいたものと推認される。

以上のとおりであつて、〈証拠〉中には児童が庇部分に出て遊んでいたのは利用者の多い月でも一、二回程度であつた旨の証言部分があるが、これは〈証拠〉に照らし採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2 右の事実に基づいて考えるに、本件展望台の屋上には一応鉄柵が設けられているものの、右鉄柵は屋上外縁からかなり内側に設置されていたため、その外側には前記のとおりかなりの広さのスペースの庇部分が生じ、このスペースは展人のような小学校低学年の児童にとつては児童特有の好奇心、冒険心からここに出て遊びたいという誘惑を抱かせるに十分のものであつて、実際にも本件事故以前に頻繁にそこで児童が遊んでいたものである。そして、この庇部分で児童が遊ぶ場合においては、庇の端のパラペットが〇・三四メートル程度しかなく、しかもこれが外側に傾斜しているのであるから、遊びに夢中になつた児童が誤つて転落する事故の起こり得ることは通常予測し得るところであり、高さ三・九一メートルの屋上から転落した場合には本件事故の如くその児童が死亡するに至ることもまた通常予測し得るところであつたといわなければならない。

とすれば、被告は本件のような構造を有する展望台を設置した場合には、児童が右庇部分に出ることを防止する措置を講じ、転落事故が生じないようにすべき義務があり、本件展望台の庇部分で児童が頻繁に遊んでいたにもかかわらず、庇部分に児童が出ることを防止する措置を何ら採ることなく放置していたときは、被告の本件展望台の管理に瑕疵があるものといわざるをえない。

しかるところ、本件展望台には、別紙図面(一)、(二)、(四)のとおり鉄柵が設置されていたとはいえ、屋上北西端の植込上部C点付近には鉄柵はないこと、児童が庇部分で頻繁に遊んでいたこと及び庇部分に出るには本件植込を通つてC点付近に出ることが容易であり、現に多くの児童がこの経路を通つて庇部分に出ていたことは前記認定のとおりであるから、右鉄柵等が児童の庇部分に出ることを防止するための安全施設としては不十分であつたことは明らかである。

〈証拠〉によれば、被告の公園管理事務所の職員が午前中は三、四回、午後は四、五回園内全域を巡回して、危険行為に対してはその都度注意を与えていたことが認められるが、本件展望台屋上の庇部分が児童にとつて誘惑的なスペースであつたことを考えるならば、右の程度では転落事故を防止するには十分であるということはできず、現実にも右巡回によつても児童が庇部分で遊ぶことを防止することはできなかつたものである。

そして、前掲各証拠によると、右に見たほか被告において、児童が本件展望台屋上の庇部分に出ること及び庇部分に出た児童が地上に転落することを防止するための措置を講じていなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、被告は右庇部分で児童が頻繁に遊んでいたことを容易に知り得たというべきであり、右防止措置を講じるにつき特段の支障はなかつたのであるから、被告の本件展望台の管理に瑕疵があつたものといわなければならない。

よつて、被告は右本件展望台の管理の瑕疵と相当因果関係あるものと認むべき本件事故による損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

なお、被告は、本件事故は展人の自らの一方的な不注意により、しかも急角度の三角塔に駆け登るという一般人の通常予測し得ない異常な行動によつてたまたま発生した事故というべきであるから本件展望台の設置又は管理の瑕疵と相当因果関係があるとはいえない旨主張する。たしかに本件事故は展人の不注意な行動に起因するところが大であるとはいえるが、児童が庇部分で遊ぶ場合右のような行動をとることもあることは通常予測し得るというべきであつて、右事情は後記のとおり過失相殺の対象となるとはいえても相当因果関係を否定するまでの事情とはいえず、この点の被告の主張は採用できない。

三そこで請求原因3(損害)について判断する。

1  展人の逸失利益

展人は本件事故当時満七歳の男子であつたことは当事者間に争いがないから、本件事故により死亡しなければ満一八歳から満六七歳までの四九年間稼働可能であり、その間昭和五八年度賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、学歴計、男子労働者全年齢平均給与額の年額金三九二万三三〇〇円の収入を得られるものと認めるのが相当であり、右収入を基礎に生活費として五〇パーセントを控除したうえ、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、展人の死亡時における逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は金二〇八三万八六〇七円(一円未満切捨て)となる。

3,923,300円×(1−0.5)×10.623=20,838,607円

2  過失相殺

前記のとおり本件展望台屋上には高さ一・三一メートルの鉄柵が設置されており、展人の如き小学校低学年の児童にとつても鉄柵外に出て遊ぶことは禁止されている危険なことであると認識することは容易であつたこと及び本件事故が展人が三角塔に駆け登ろうとして反動をつけるために後ずさりして庇の端のパラペットに足をとられたために発生したものであることからすれば、本件事故の発生につき展人の軽卒な行動が大きく寄与していることは明らかといわなければならない。

右の事情と被告の本件展望台の管理の瑕疵の程度を対比すると、展人には本件事故の発生につき八〇パーセントの過失があるものと認めるのが相当であるから、前記1の展人の逸失利益の額金二〇八三万八六〇七円につき八〇パーセントの過失相殺をすると被告に請求しうべき展人の逸失利益は金四一六万七七二一円(一円未満切捨て)となる。

3  展人の慰謝料

本件事故の態様その他本件において認められる諸般の事情を考慮すると、展人が死亡により被つた精神的損害を慰謝するには金八〇万円が相当と認められる。

4  相続

原告らが展人の父母であることは当事者間に争いがないから、原告らは、昭和五八年五月二二日展人の死亡により、同人の被告に対する金四九六万七七二一円の損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合(各金二四八万三八六〇円、一円未満切捨て)で相続によつて取得したことが認められる。

5  原告ら固有の慰謝料

本件において認められる諸般の事情を考慮すると、原告らが展人の死亡により被つた精神的損害を慰謝するには各金八〇万円が相当と認められる。

以上によれば、原告らは被告に対しそれぞれ金三二八万三八六〇円の損害賠償請求権を有することとなる。

四よつて、原告らの本訴請求は、被告に対しそれぞれ金三二八万三八六〇円及びこれに対する展人の死亡した日である昭和五八年五月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用し、仮執行宣言は必要がないから付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官原 健三郎 裁判官長野益三 裁判官吉波佳希)

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